第557話彼は売られたことすら知らなかった

「たとえ今日あなたが会いに来なかったとしても、私は明日、誰かに契約書を用意させて届けさせるつもりだったわ。でも、いまここで契約するにしても、印刷して手配するのに時間がかかる。あなたは先に戻ってくれない? 契約書は明日、こちらから送らせるから」

一度退いて前に進む――ゾーイはこのところ、ますます賢くなっていた。

だがジェームズには、それが言い訳なのか本心なのか判然としない。余計な面倒を避けるため、彼は言った。「必要ない。時間はある。待つよ」

ゾーイは彼がそう言うと分かっていた。「じゃあ、少し待っていて。契約書をこちらに送るよう、電話を入れるわ」

ジェームズは、ゾーイがこんなにもあっさり承...

ログインして続きを読む